ベンチで研究か,ベッドサイドで臨床か.
病理学の課題でグリコーゲンが蓄積する病気を調べていたら,『小さな命が呼ぶとき』(2010,アメリカ;原題”Extraordinary Measures”)という映画を知った.観てみたら,今まで見たことのない良作だと思ったので,ちょっとメモ.
…ネタバレがあるので詳しくは追記に回すけど,医薬ベンチャーってどんな感じなのか,その雰囲気がよく伝わってくる作品.iPSだの抗体医薬だのというトピックになると,必ずと言っていいほどベンチャー企業が登場するけど,じゃあ実態はどんなもん?ってなると,個人的には,いまいちピンと来ないなって思っていた.そんな人にとってはいいヒントになるんじゃないかなぁという作品.
中身をおおざっぱに言えば,ポンペ病という難治疾患に治療薬をもたらすため,患児の父親が研究者を誘ってベンチャーを立ち上げるドラマ.主人公たちは「これは行ける!」っていう治療法を持って会社を立ち上げるわけだけど,実際に薬を売り出すまでの莫大な費用(ウン十億円はかかると思う…)は人様に借りなきゃいけないわけで,その辺の苦労がよく描けてるんじゃないかっていう気がする.医薬品に詳しい専門投資家たち(ベンチャーキャピタル)に頭を下げ,でも結果が出ないからってさっさと身売りされ,買収された会社では窓際族に準ずる扱いになり….ベンチャー,ベンチャーと盛り上がってはいるけど,10社に9社は潰れる世界,やっぱ甘くはないよなぁ…ってのがよく分かる.
そもそも,病気の原因遺伝子が見つかったりするたびにテレビでは「新しい治療法の可能性!」って紹介してるけど,実際はそこからが遠いんだよねぇ.試験管の中でうまくいくのと,実際に効く薬が売れるっていうのは,学問とビジネスという,ある意味で全く次元の違う話なわけで…そう考えてみれば,そりゃあ机上の話を基に会社を作っても,そう簡単にいくわけがないってのも,むべなるかな!
話は変わるのだけど,毎年,ノーベル賞の時期になると,Nature Videoで過去の受賞者と若手の研究者が対談する様子を放送している.そのシリーズの“Bench or bedside?”という回で,ムラド博士(一酸化窒素に関する研究で98年に医学生理学賞)が「研究と臨床は両立できないだろう」って言っていた.その理由は,中途半端に臨床をやってたらいい治療はできず,ミスも起こすだろうし,中途半端に研究をやってたらいい研究はできず,そもそも研究費を獲得できない…っていう,もっともなものだった.
インタビューをしていたカメリアさんという方は,どっちもやりたいと思っているようで,結局,最後まで「両立できるよう努力する!!」って頑張ってた.私も同じようなことを思っているので,彼女の気持ちが分かるような気がしたんだけど…でも現実問題としては,やっぱ厳しいだろうなーって思う.実際に大学を見てみても,基礎研究をやっている人で,臨床での経験を出発点にやっている人はいるけれど,そういう人はみんな臨床を辞めて来ているし.
研究から臨床に持ち込む…ってのはあくまで大人数の共同作業としての話で,一人ひとりはそのどちらかに専念することになるんだろう.世界に羽ばたく空論を打ち立てるための研究か?それとも今ある方法に満足して治療に勤しむか?…まぁ,結局のところ,自分がどっちに向いてんのかってとこで決まるんだろうなぁ.
コメント・トラックバック
この記事へのコメント・トラックバックはありません.
現在,この記事へのコメント・トラックバックは受け付けておりません.