イギリスではロールモデルは見つからなかった
リンカーンシャー、グランサム。アイザック・ニュートンの育った街、そしてマーガレット・サッチャーの故郷。ずっと気になっていたこの街に行ってきた。
東海岸線で通り過ぎるたび、駅の雰囲気は悪くないなと思っていた。けど、いざ駅を降りて歩き出すと、街の入り口にどーんと立つスーパー、モリソンズ…思わず「む」と立ち止まってしまった。
知ってるかもしれないけれど、イギリスにはスーパーにも「格」というか、ランク付けのようなものがある(ていうか日本にもあるよね)
スーパーで街の「品定め」をするのはいいことだと思わないけれど、でも少なからず街の実態を反映しているのも事実。例えば、ウィンザー(女王陛下のお膝元)にはとても大きなウェイトローズがあった。カンタベリーみたいに小さくても歴史のある街なら、商店街(High Street)にはM&Sがあることが多い。ハマースミスのような、そこそこの住宅地にはセインズベリーやテスコの大型店が建っていたりする。
一方、ロンドン近郊でアスダやリドルがある地区に入ってしまったら、気をつけなくてはならない。というのは、治安の悪い地域にこうした大規模店を建てて、強引に治安を良くしようとする都市計画がなされていることも少なくないから。
というのが、モリソンが一等地に建っているのを見て(あー失敗したか…?)と思った理由。でも、せっかくなので街中をぶらぶら。「見たいものばかり見えてしまった」という部分もあると思うのだけど、やっぱり素敵な感じはしない街だった。住宅街はお世辞にも綺麗という感じではないし、やたらタトゥー屋さんが多い。市役所の方や資料館のおじさまは親切だったけど、「何年か前に美術館は閉めちゃったんだよ」っていう話からも、グランサム市全体としてさほど豊かではないことがうかがわれる。
そして街中に入っていったら…果たしてあったよ、リドルとアスダ。サッチャーの生家のすぐそばに。
ニュートンの時代にこの街がどうだったかは分からないけれど、少なくともサッチャーの育った時代なら想像をたくましくすることができる。以前は大きな企業もあったみたいだし、スーパーについて言うなら最近までM&Sもあったらしいから、もうちょっと経済には活気があったのかもしれない。でも、他に取り立てるほどのものもない小さな街で、皆が皆を知っているような(ちょっと息苦しい)コミュニティだったところは、おそらく今とさほど変わらなかったはず。
イギリス初の女性警察官を生んだ街であり、父親が地元の名士だった(1946年には市長も務めた)とはいえ、女性だったサッチャーがここで才能を伸ばし、オックスフォードに進んで化学を学び、下院議員となり、保守党党首となり、そして首相になった…というのは、いくら「鉄の女」だったとはいえ大変なことだったろう。いまの、グランサムの街の様子を目の当たりにしたがゆえ、一層そう思う。
イギリスに留学しておきながらあちこち旅行して、自分でも何をしたかったのかと思うことがあるけれど、今思えば“ロールモデル”を探していたんだと思う。でも、ダーウィンやH.V.カーターはお金持ちのぼんぼんだったし、サッチャーやニュートンは名家の生まれ…ジェントルとジェントルマンだけが歴史を紡いできた(そして今も紡ぎ続けている)イギリスでは、私のロールモデルなんて見つかるはずがなかったんだと、ようやく気づいた。
というより、むしろロールモデルを探そうとすること自体が間違いだったのかもしれない。グランサムの街を歩きながらいろいろ考えるうちに、なんというか、自分が自分のロールモデルになるしかないじゃん?という答えに至った。自分は自分の正しいと思う生き方をすればいいんだし、そういう生き方しかできない(個人的なことを言えば、もうアラサーだしね…いまさら生き方を変えるっていうのも正直難しい)。自分の前に線路がなかったら、自分でレールを買ってきて、自力で敷くしかないじゃん?…サッチャーの生まれ故郷を歩いていて、そんな当たり前のことに改めて気がついた。まぁ、キザったく言うなら決意だし、裏を返せば単なる諦念だね。
でも、仮にそう決心できたのだとすれば、往復30ポンドもかけて、たった2時間だけ鄙びた街を歩き回ったことにも、何か意味があったのかもしれない(というかそう思いたい)…とはいえ、特に理由もなく降りることはない街だね。
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