モルディヴ
8月1日からモルディヴに行ってきました。
モルディブは、赤道下インド洋に浮かぶ環礁群からなるイスラム国家です。首都は Male マーレ、時間はGMT+5(JMT-4)。言語は Dhivehi ディベヒ語ですが、リゾートや空港では、通常英語がOK。それに、通貨は Rufiyaa ルフィアですが、一般にアメリカドルが使えるので、旅行者はまず目にする機会がありません。珊瑚が美しく、ダイビングやスノーケリングには最適といわれている一方で、地球温暖化により穏やかに沈みつつあるという課題もあります。今回訪れるきっかけとなったのは、数ヶ月前のTBS系「世界!ふしぎ発見」で、この国が取り上げられていたことです。番組を見た母がたいそう気に入ってしまい、最初は冗談だと思っていたら、本当にJTBを通じて予約をしてしまいました。
書店で「地球の歩き方」でも手に取っていただくとお判りになるとおり、モルディブは個人旅行には向かない国家です。その理由を説明する前に、モルディブ旅行の特色を理解しなくてはなりません。一般に、モルディブを訪れた旅行客は、Male International Airport マーレ国際空港のある Hulhule フルレ島につくと、そこから各リゾートの船あるいは水上飛行機で各々のリゾート島へ向かうことになります。そして、帰りも同じく、リゾートから一路フルレ島に戻り、帰国。即ち、フルレ島とリゾートにしか立ち入らないのです。せいぜい首都のマーレに寄り道するくらいのものでしょう。なぜかというと、一つは交通網の問題。一般にフルレとリゾートを結ぶ交通網はあるものの、需要が少ないリゾート間の交通網は原則として無いのです。そしてもう一つが政策。イスラム教国家であるモルディブは、国民の過度の感化を防ぐため、外国人が不必要にリゾートやマーレ以外の島を訪れることを好みません。モルディブは、一島一機能が原則です。即ち、一つの島には、漁村、リゾート、空港、というように、どれか一つの役割しかないのです。これを生かして、モルディブ政府は、一般国民が住む島への外国人訪問を厳しく制限しています。これらの理由により、モルディブ旅行のスタイルは規定されてしまっています。しかし、個人旅行がよくない最大の理由は、これとは別にあります。リゾート滞在費用です。一般向け価格より、旅行会社向け価格の方が格段に安いのです。モルディブのリゾートは供給不足で、どこも常にフル回転している、という現実がこの一因となっているようです。いずれにせよ、モルディブに行くならツアーやパッケージ、となるわけです。
では、これ以上の説明はガイドブックを読んでいただくことにして、実際に私たち一家(両親と私)が旅行した行程を紹介させていただきます。滞在したのは、Kramathi Cottage & Spa。往復にはシンガポール経由で成田とマーレを結ぶ、シンガポール航空を利用しました。これは、単に安かったからですが、他に、スリランカ航空(直行便もあり)・マレーシア航空も運航しているので、実際に行かれるときはじっくり選んでみてください。特に、ストップ・オーバー(経由地で滞在すること)される場合など。
さて、私たちがマーレに着いたのは21:50。空港は小さく、タラップから入国審査まで徒歩です(その間の撮影は自由らしい)。夜遅くはリゾートまでの足が無いため、マーレに一泊することになります。現地ガイド女性(もちろん日本人)の指示に従い、Hulhule Island Hotel フルレ・アイランド・ホテルに向かいます。ここは、唯一空港のあるフルレ島にあるホテルです。プールやバー、さらにはマリンスポーツの設備もあるなど、結構設備はいい方らしいです。ただ、我々が泊まった部屋は、小ざっぱりした、むしろビジネスホテルのような部屋でした。やはり、リゾート中心のモルディブ、マーレのホテルには商用の客しか宿泊しないようです。
翌日はスピードボート(一時間半)でKuramathi Tourist Islandへ。ラスドゥ環礁にあるこの島は比較的大きく、東西に細長い島です。一つの島に同一経営の3つのリゾートがあります。東から順に、Kramathi Village、Kramathi Cottage & Spa、Blue Lagoonです。今回はコテージクラブ・アンド・スパへの宿泊です。スピードボートの着く桟橋は、ビレッジのレセプションに近い位置にあるので、ここで必要事項を記入した後、無料バスでコテージ&スパのレセプションに向かいます。ただ、この際、voucher(予約証明書)が無かったので、トラブルになりかけました。ホテルの方がしつこく訊くので、つたない英語で必死に説明して・・・最終的にはホテルの方が旅行社に問い合わせて、現地旅行社がFAXしたからよかったものの・・・。現在、JTBは紙面で発行しないそうなんですが、やはり「紙」として持っていたほうが安心ですよ・・・ね。
さて、ここからは4日間の滞在で思ったことを綴ってみます。まず、泊まったのは水上コテージ。こじんまりとした外見とは裏腹に、中は意外に広々として、エアコン・サーキュレータ・シャワー・バスタブなど、設備もかなり整っていました。ベランダから階段を下りると、すぐに海に下りられるので、プライベートビーチのようでよかったです。満潮時(訪問時は大潮だった)は、沖の浅瀬を越えた波でコテージ付近の水は濁ってしまうのですが、それ以外の時は、かなり水が透き通っています。コテージ下にすぐ珊瑚があり、魚も様々な種類がいて、沖に出なくても楽しめました(沖のほうがもっと種類もいるのは言うまでもないですが)。ただ、これらの魚は餌付けされていたのでしょう、人影が見えるとサーッと集まってきます。楽しい反面、少し寂しい気持ちになります。なお、現在、少なくともダイビングにおいては、法律で餌付けは禁止されています(でも実はコテージからスナックをあげてしまった・・・)。また、釣りなどについても制限があります。モルディブでレジャーをする時には、常に禁止事項や制限事項に留意しなくてはなりません。これも生態系を破壊しないための配慮です(でも珊瑚を少し蹴ってしまったような・・・)。
海岸は全て珊瑚の砂浜海岸。西端には大きな Sand Bank があります。しかし、スノーケリングをするには、多少波は立っても、砂の海底が狭い南側の方がいい気がします。砂浜には、カニとヤドカリが多数。貝殻はヤドカリのお家ですから持ち出し禁止です。生き物は他にも、海鳥や蝙蝠などがいます。あと、ネズミちゃんも・・・。
ホテルの施設についてですが、大規模なリゾートであることもあり、かなり充実しています。レストランは複数ありますし、バーやスポーツ施設もあります。設備の整った医療施設もあるので安心してダイビングにも行けます(でも私たちはスノーケリングで一杯一杯だった)。セレナスパというスパでは、アーユルヴェーダを基本にしたスパが受けられます(ただ、ここは時間にちょっとルーズです・・・母が選んだ50分のコースではなぜか2時間近くかかっていました・・・)。それから、バイオステーションには海洋生物学者が来る日があるらしいです。
食事について。予め食事はつけておいたのですが、コースの時もあれば、ビュッフェの時もありました。テーブルは固定で、毎回来るボーイさんも同じ人です(だからチップは最後にまとめて払えばよい)。私たちのボーイさんは、なんだか、はにかみ屋さんでした。食事は、島の割には多様です。ただ、美味しいかどうかは人によるみたいです・・・。何より、欧米人が多いので、彼らに合わせた食事ですから、日本人にはキツイことも。尚、一回だけアジアンビュッフェがあったのですが、いつもは閑散としたレストランが、その時だけ激しく混んでいたのは印象深かったです(Japanese Cakeなどの謎の日本料理があったのも印象深い)。イスラム教は豚肉禁止ですから、豚を扱うリゾートのシェフはスリランカ人でした(彼らの英語はかなり独特で理解が大変)。それから、これもイスラム教のせいでしょうか、酒が高い!一度スパークリングワインを頼んだら、やたらと慎重に、高そうなものを持ってきたので、焦ってキャンセルしました・・・。皆様もぜひ、お気をつけください。ちなみに、私たちは行きませんでしたが、レストランは複数個所あり、予め連絡して追加料金さえ払えば、各リゾート既定のレストラン以外で夕食をとることも可能でした。
それにしても、こういう風に海外に行ってやはり痛感するのは、飲み水が身近にある有難さですね。私は、水をかなり大量に使う方なので、特に切実な問題なんです。飲み水はもちろん、トイレやシャワーを使うと、水が自由に使えないというのは死活問題といっても過言ではないと痛感します。モルディブもこの例外ではありませんでした。特に、環礁から成り立つモルディブのリゾートでは、島内で消費されるだけの淡水を、雨水だけから供給するのは不可能なので、エネルギーを消費して海水から淡水を作り上げています。そのため、レストランで残したミネラルウォーターのボトルは、次の食事までテーブルに置いたままにするし、タオルやバスローブも必要なものだけ洗うようになっています(洗うものはバスタブの中へ、というお決まりのメモ書きがある)。それから、モルディブではゴミも問題になります。前述のように「一島一機能」のモルディブでは、当然ゴミ捨て場の島があるのですが、日本の「夢の島」なんかとは比べ物にならないくらい、処理能力に限界があるのです。これまたゴミを大量に出す私にとって、これも課題でした・・・。
さてさて、帰国時ですが、スピードボート到着からチェックイン開始まで時間があったので、マーレ観光をしました。パック旅行でよくある、お土産屋の店員が案内するものです。彼は、日本語を勉強しているそうで、そこそこ日本語が通じました(伝わらなければ英語で一生懸命がんばる)。モスク(モルディブでは「ミスキー」)や魚市場(カツオのなかにサメが並んでいた)、野菜市場(包み紙が新聞紙のタバコを売っていた)、大統領官邸(警備員はなぜか皆白人)などを見学しました。23:05のシンガポール行きで、出国。一路帰途につきました。それにしても、帰国時のマーレ空港は、かなり日本人だらけでした・・・。
さてさて、それはいいのですが、私の記憶に付きまとって離れないのはマーレ観光のガイドさんです。私は、彼は25歳くらいかと思っていたのですが、話を聞くとなんと今年19歳になったそうです。彼にしてみれば、私は童顔ですから、15歳くらいに見えていたのでしょう。私はその時18歳でしたが、今は同い年なわけです。複雑な気持ちでした。同じ年齢ながら、私は大学に通いながら遊び暮らし、一方、彼は怖そうな店主の下で立派に働いているのですから。彼は、いつか日本に行きたいと言っていました。マーレを紹介して、「凄いでしょう?凄いでしょう?」と言っていました。私は様々な都市を知っているけれど、彼にしてみればマーレが唯一の都市だったのかもしれません。彼の住んでいる世界と、私の住んでいる世界は、確かに重複しているけれど、かなり違うと実感しました。彼はきっと私をうらやんでいるでしょうが、正直、私も彼がうらやましいとも思いました。19歳で立派に言葉を使いこなし、働いているのは凄いです。それに比べて小さな自分の存在を考えると、少し寂しい気持ちになりました。
綺麗な海と澄んだ星空。そしてそこに生きる人。また会って、語り合いたいと思うモルディブでした。
オススメ度:☆☆★(2.5/3.0)
その後のモルディブ(2004.08.16 追記)
8月12日から13日にかけて、首都マーレで民主化デモと暴動がありました。政府施設が放火されたり、警官が刺されたり、鎮圧のために治安当局が催涙弾を使用したりするほどの穏やかならぬ騒ぎで、最終的に80人ほどが拘束されたといいます。時期的にオリンピックと重複していることや、経済的に我が国に重要でない小国の事件であることもあり、紙面でもテレビでもほとんど報道されていませんが、どうやらデモ自体が鎮圧された今でも、首都マーレと周辺3島に出された非常事態宣言は継続中で、さらにマーレ市街地では外出禁止令も出されているようです。
旅行ガイドには、「治安はよい」「国民は穏やか」とあるモルディブですが、そうではないのかもしれません。とはいっても、さすがに内乱のようなものは、1960年代の「南部反乱」と言われるものを最後に、起こっていないようです。しかしながら、外務省などの案内によると、1988年には外国人勢力によるクーデター未遂事件があったし、近年は民主化デモが頻発しているようです。
今回は、モルディブのことについて、旅行直後とは異なる視点から書いてみたいと思います。と、ここでお願いです。以下の記述には、事実と共に筆者の主観や想像が混ざっていますので、その点にだけは注意して読んでいただきたいのです。意図しない部分で、モルディブのイメージを悪くすることだけは避けたいです。ということで、では本題。
私は、旅行前から、移動や居住などの規制があるということに関しては、変な感じを覚えていました。いくらイスラム教国といっても、「国民の感化を防ぐために」国内の移動を規制する国家など聞いたことがありません。しかし、実際に旅行してみると、不思議なことはそれだけではありませんでした。
何よりも、生の国民の姿が見えないのです。リゾートで出会う人たちは皆スリランカ人などの外国人のようだし(少なくともモルディブ出身を称する人はいなかった)、正直なところ、マーレ観光のガイドもモルディブの方ではないようでした(なぜなら、学校教育のシステムを知らなかったのです)。マーレ市街地の市場や学校で、モルディブの人々を見かけられたと言えばそうですが、それだって、もしかしたら北朝鮮の平壌のように、「用意された」良いところだけ見せられたのではないとは言い切れません。
また、これも不思議なことに、あまりマスメディアが見かけられないのです。リゾートだからかもしれませんが、滞在地のホテルにはテレビ・ラジオ・新聞等は一切ありませんでした(さすがにネットは使える)。また、マーレでも、市販のタバコの巻紙に新聞紙が使われていたのと、空港の売店のオジサンがテレビでドラマを夢中になってみていたこと以外に、メディアを見かけた記憶がありません。もし、実際に情報網が充実していないのなら、あるいは情報操作や情報統制が容易に行われる危険性もあるでしょう。
さらに、一番不思議だったのは、公共施設。警察署近辺が撮影禁止なのはまだ分かります(警察が軍の役割も兼ねているのでしょう)。でも、私が変に思ったのは、大統領官邸などの要所の警備員が、(私の見た範囲内では)白人ばかりだったということです。普通の国家であれば、情報漏洩を防ぐ面からも、自国民に警備を任せると思います。しかし、モルディブでは、明らかに(少なくとも一部は)土着の人ではない人に警備を任せていたのです。私は、「自分の国の国民を信用できないわけじゃないだろうに?」と思ったのを覚えています。モルディブ人警備員に出会わなかったのは、単なる偶然かもしれませんが、もしかしたら、実際に、自国民に警備を担当させたくない理由が存在するのでしょうか。
26年に渡ってガユーム大統領が政権を維持しているというモルディブ。「民主化デモ」の名の通り、「共和国」であるものの、実際には民主的国家では無いのかもしれません。上に書いてみたことは、単なる疑心暗鬼かもしれないけれど、でも、それで済ますには変わった点が多すぎます。一見ありふれたリゾート国家に見えるモルディブですが、もしかすると、真の姿は対外的な姿とは異なり、かなり異常な、「閉じた」国家なのかもしれません。今後のモルディブの動きが、その真の姿を明らかにしてくれることでしょう。
さらにその後のモルディブ(2012.09.27 追記)
この記事は昔、ウェブサイト用に書いたものです。今読むと恥ずかしいな…でも、当時のウブな感覚をいじらずにとっておこうと思って、そのまま乗っけてみます。
あれからというもの、2004年にスマトラ島沖地震があり、ガユーム大統領が去って民主化が始まり、いまはどんな風になっているのかなと思うことがあります。一番最近ニュースになったのだと、リゾートでの外国人結婚式で、言葉が分からないのをいいことに罵詈雑言を吐いていた…ってやつかな。まぁ、近頃の欧米とイスラムの軋轢を見ていると、さもありなんという感じはしたけど…どうなんですかね、これからのモルディヴ。
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